「AIが書けるなら、エンジニアの仕事はなくなるのでは」
そう言われることが増えました。でも、実際にAIを使い込んでみた私の実感は、少し違います。仕事が消えたのではなく、同じ時間でやれることの量が変わった——これが一番近い表現です。
私は育休中の今、AI(Claude Code)と一緒に、ブラウザで動く計算ツールを4本作って公開し、ブログを2サイト運営しています。本業はSESエンジニアで、Web専業でもなければ、個人開発を長くやってきたわけでもありません。
この記事では、AIで実際に何をどこまで作れたのか、どの工程を任せてどこを自分がやったのか、そして正直な限界まで、当事者としてそのまま書きます。
結論:一番の恩恵は「スピード」だった
先に結論を書きます。
- AIで一番変わったのはスピードです。作る・調べる・直すの全部が、一人でやっていた頃とは比べものにならない速さになりました
- 実務の土台がなくても、作ること自体はできます。分からない部分は、その場でAIに聞けばいい。「知識がないから作れない」という壁は、以前よりはるかに低くなりました
- ただし、「どこまでできるのか」「何が作れるのか」「できたものにどんな変更を加えられるのか」——この見通しは、持っている知識に多少は左右されます
大事なのは3つ目です。知識は「作れる/作れない」を分ける壁ではなく、「どこまで速く、どこまで広くやれるか」という見通しを良くする補助線でした。ゼロでも走れます。ただ、少しでも知っていると、走る方向を早く決められる——そういう性質のものです。
私の前提:Reactは実務で触っていた。でも「それがないと作れない」わけではない
正直に前提を書いておきます。
私は30代でIT未経験からSESエンジニアに転職して1年半、13個の資格を取ってきました。今回作ったツールはReactとTypeScriptで書いていますが、Reactは実務で触った経験があります。まったくの初見ではありません。
ただ、これを「土台があったから作れた」と書くのは、たぶん正確ではありません。実際に手を動かしてみて思ったのは、分からない部分はAIに聞けば埋まるということです。知らない書き方が出てきても、その場で「これは何をしているのか」と聞けば返ってきます。知識がないことは、もう手を止める理由になりません。
私の経験が効いたとすれば、それは「こういうものが作れそうだ」「ここはこう変えられそうだ」という見当がつきやすかったという点です。作れるかどうかではなく、見通しの解像度の差。この記事を通して、そこは正直に切り分けて書きます。
実際にAIと作ったもの
抽象論だと伝わらないので、成果物から出します。すべて実際に公開して動いているものです。
計算ツール4本(すべてブラウザ完結・登録不要)
| ツール | 内容 |
|---|---|
| 複利計算シミュレーター | 積立額・利回り・期間から将来資産とNISAの非課税メリットを試算 |
| 退職金シミュレーター | 公務員の退職手当を勤続年数・退職理由から概算 |
| 育休手当シミュレーター | 会社員・公務員を切り替えて育休中の給付額を試算 |
| ライフプランシミュレーター | 家族構成・収入・教育方針から100歳までの資産推移をグラフ化 |
いずれもReact + TypeScriptで作っていて、お金の計算をする部分は単体テスト(プログラムの一部分だけを対象に、期待どおりの数字が出るかを自動で検証するテスト)で確認しています。サーバーに何も送らず、ブラウザの中だけで計算が完結する作りです。
ブログ2サイトの運営
このITブログ(zero-it-engineer.com)と、家計・資産形成のブログ(kakei-sekkei.com)の2つを運営しています。記事の壁打ち、SEOまわりの点検、構造化データの実装——ここでもAIを併走させています。
育休という限られた時間の中で、ここまで手を広げられたのは、間違いなくスピードの恩恵です。
開発でAIをどう使っているか:工程ごとの実際
ここがこの記事の本題です。「AIに丸投げしたら出てきました」ではありません。工程ごとに、実際どうしているかを書きます。
要件定義:ここは自分で決める
何を作るのか、なぜ作るのか。ここは自分で決めています。
たとえば育休手当シミュレーターなら、「育休前の月収を入れたら、月ごとの給付額と総額が見えるようにしたい」「会社員と公務員で制度が違うから切り替えられるようにしたい」——この部分です。自分が育休の当事者として欲しかったものなので、ここは人に任せる話ではありませんでした。
設計・実装・動作確認:AIに任せられる
設計もAIはできます。実際、設計そのものをAIにやらせたツールもあります。仕様をまとめてもらい、計算ロジックの構造を組んでもらい、そのまま実装まで進める。動作確認のテストコードもAIが書いて、実行してくれます。
「設計は人間、実装はAI」という綺麗な分業を最初は想像していましたが、実際は違いました。AIは上流までやれます。
レビューと修正指示:ここが自分の仕事
ただし——AIが出してきた設計もコードも、必ず自分がレビューして、修正を指示しています。
そのまま通ることは、正直まずありません。計算ロジックが仕様とズレている。想定していた前提と違う実装になっている。根拠が曖昧なまま数字が入っている。こういうものを見つけて、「ここはこう直して」と返す。この往復が、実際の作業時間の大半です。
微修正:最後は自分の手で
細かい調整は自分で直します。ここまで来ると、指示を書くより自分で書いたほうが速い。最後の品質は自分で担保する、という感覚です。
つまり、何が速いのか
この「任せる → レビューする → 修正を指示する」のサイクルが、とにかく速い。これがAIの恩恵の正体でした。
一人で全部書いていたら、4本のツールを育休中に公開するのは無理でした。知識があると、このサイクルを回すときの見通しが良くなる——修正指示が的確になり、往復の回数が減る。速さの差はそこに出ます。
勉強でAIをどう使っているか
資格勉強でもAIを使っています。用途は、はっきり2つです。
① 用語を自分向けに噛み砕いてもらう
参考書の定義は、正確である代わりに硬いことが多い。読んでも頭に入ってこない用語に当たったとき、「もっと噛み砕いて説明して」と頼みます。自分のレベルに合わせて言い直してもらえるのは、独学だと得がたい環境です。
② 問題の解説をさらに深掘りする
過去問の公式解説を読んでも腑に落ちないことがあります。「なぜこの選択肢が違うのか」「この前提はどこから来るのか」——そこを追加で質問して、納得できるまで掘る。
私はこれまで間違えた問題を翌日に解き直す復習サイクルで資格を取ってきました。この方法は「間違えた問題を理解できていること」が前提になります。理解の部分をAIが埋めてくれるので、復習の質が上がりました。
今挑戦している情報処理安全確保支援士の勉強でも、同じ使い方をしています。
正直な限界と注意点
良いことばかり書いてきましたが、ここを書かないとフェアではありません。
AIは平気で間違える。一次情報の裏取りは必須
これが最大の注意点です。AIは、それらしい顔をして間違えます。
私が作ったツールは、お金の計算をするものばかりです。数字が間違っていたら、読んだ人に実害が出ます。だから計算根拠は、必ず自分で一次情報を確認しました。退職金なら国家公務員退職手当法の条文、複利計算の税率なら国税庁、育休手当なら厚生労働省と共済組合の公式資料。AIが出してきた数字をそのまま信じたものは、ひとつもありません。
「AIが言っていたから」は、根拠になりません。ここは手を抜けない部分です。
セキュリティの視点は自分で持つ必要がある
AIに何を渡すかは、自分で判断しなければいけません。業務の機密情報や個人情報を安易に投げるわけにはいかない——当たり前の話ですが、便利さに慣れると抜けやすいところです。
「作れる人」が増える時代だからこそ、守る側の知識の価値が上がると私は考えています。これが、私が登録セキスペに挑戦している理由のひとつでもあります。
知識ゼロでも作れる。ただし「幅」と「精度」は変わる
冒頭の結論に戻ります。知識がなくても作れます。ここは本当です。
ただ、作れるものの幅と、加えられる変更の精度は、多少なりとも知識に左右されます。「そもそもこういうことができる」と知らなければ、その選択肢は出てこない。出てきたものが妥当かどうかも判断しづらい。
だから知識は、AIがあっても無駄になりません。むしろAIを速く回すための燃料になります。
これからエンジニアはAIとどう付き合うか
私なりの整理です。
実装のハードルが下がったことで、「作れること」自体の希少価値は下がっていきます。その代わりに残るのは、何を作るかを決めることと、出てきたものが妥当かを判断すること——この2つだと感じています。
そして、この2つは知識がないとできません。AIが実装を肩代わりしてくれるからこそ、判断できる材料を持っているかどうかで差がつく。私が育休中も資格の勉強を続けているのは、この読みがあるからです。
未経験の方や、これから触ってみたい方へ。まず何か1つ、小さくても動くものを作って公開してみるのが一番早いと思います。分からないところはAIに聞けばいい。私自身、それで4本公開できました。
最初の1本を作るなら
「とはいえ、何から手をつければいいのか」という方向けに、私が入口としておすすめできる講座を1つ挙げておきます。
Claude Codeで始めるAIプログラミング入門:HTMLやPythonアプリをVibe Codingで自動生成
約2時間と短く、価格も手頃な部類です(Udemyはセールが頻繁で価格が変動するため、最新の金額は公式でご確認ください)。この記事で書いてきた「AIに任せて、レビューして、直す」という流れを、実際に手を動かしながら一通り体験できます。初学者が最初の1本を作るための入口として、ちょうどいい分量だと思います。
まとめ
- AIの最大の恩恵はスピード。「任せる → レビューする → 修正を指示する」のサイクルが速く回る
- 実務の土台がなくても作れる。分からない部分はAIに聞けば埋まる
- ただし「どこまでできて、どんな変更を加えられるか」の見通しは知識に多少左右される。知識は壁ではなく、速く回すための燃料
- 要件定義は自分。設計・実装・動作確認はAIに任せられる(設計もAIはできる)。ただしレビューと修正指示は必ず自分
- AIは平気で間違える。数字を扱うなら一次情報での裏取りは必須
育休中の限られた時間で、ツール4本とブログ2サイト。1年前の自分には、絶対に無理な量でした。AIは、私にとって「できることを増やす道具」ではなく、「同じ時間で進める距離を伸ばす道具」でした。
よくある質問(FAQ)
Q1. 実務経験がなくても、AIで個人開発はできますか?
できます。分からない部分はその場でAIに聞けば埋められるので、「知識がないから作れない」という壁はかなり低くなりました。ただし、どこまでできるのか・何が作れるのか・できたものにどんな変更を加えられるのかという見通しは、多少なりとも知識に左右されます。知識は作れるかどうかを分ける壁ではなく、速く広く進むための補助線だと感じています。
Q2. どの工程をAIに任せて、どこを自分でやっていますか?
要件定義(何を・なぜ作るか)は自分で決めています。設計・実装・動作確認はAIに任せられます。設計そのものをAIにやらせたツールもあります。ただし、AIが出してきた設計もコードも必ず自分がレビューして修正を指示し、細かい微修正は自分の手で直しています。この「任せる→レビュー→修正指示」の往復が作業時間の大半です。
Q3. AIで資格勉強は効率化できますか?
私は2つの用途で使っています。1つ目は、参考書の硬い用語を自分向けに噛み砕いて説明してもらうこと。2つ目は、過去問の公式解説で腑に落ちない部分を追加質問で深掘りすることです。間違えた問題を翌日に解き直す復習法を続けているので、その「理解」の部分をAIが埋めてくれることで復習の質が上がりました。
Q4. AIが出した内容をそのまま信じて大丈夫ですか?
危険です。AIはそれらしい顔をして間違えます。私が作ったのはお金の計算ツールなので、計算根拠は必ず自分で一次情報(法令の条文・国税庁・厚生労働省・共済組合の公式資料)を確認しました。AIが出した数字をそのまま採用したものはひとつもありません。「AIが言っていたから」は根拠になりません。
Q5. AIに情報を渡すときの注意点はありますか?
何を渡すかは自分で判断する必要があります。業務上の機密情報や個人情報を安易に投げるべきではありません。便利さに慣れるほど抜けやすい部分なので、意識的に線を引くことが大切です。作れる人が増える時代だからこそ、守る側の知識の価値が上がると考えています。
Q6. AIが使えるなら、もう勉強しなくていいのでは?
逆だと思っています。実装のハードルが下がるほど、「何を作るかを決めること」と「出てきたものが妥当かを判断すること」が残ります。この2つは知識がないとできません。AIが実装を肩代わりしてくれるからこそ、判断材料を持っているかで差がつく。私が育休中も資格の勉強を続けているのは、この理由からです。